工務店 佐渡 takumi-2jamの日記

佐渡島で自然素材をふんだんに使った家づくりに取り組みながら、気ままに書き綴っています。

佐渡 私の夏休み宿題/青木淳講演会20170707atビュー福島潟

気温も30度を下回り、東寄りの風が心地良く、比較的過ごしやすい日々がここ数日続いている佐渡島です。
今日のブログは、過日(7月7日)新潟のビュー福島潟で行われた「(建築家)青木淳 講演会」を振り返った内容です。
※早いうちにこの場で記事にしようと思っていましたが、夏休みにずれ込んでしまいました。また長文も、ご容赦願います。「^^」>

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『はじめに』
 この講演会は水の駅「ビュー福島潟」の開館20周年を記念し、ニイガタケンチク探検の方々の熱意と努力で実現した貴重な講演会でした…と書けば簡単すぎるかもしれません。「この建物の、成人式をしたい」という彼らの熱意に打たれ、この建物を設計した建築家の青木淳も講演会の企画を快諾された、と聞きました。1か月余り経ちましたが、関係者の皆様お世話になりました。ありがとうございました。
・・・ 
『青木氏の設計に対する決定ルール』
 なぜそこに、そうした形で?という建築物に対する問いかけは、建築で意匠設計をしている人にとって(クライアント向けだけでなく)自身への命題でもあり、今回はそれが現在著名な建築家本人の口から語られるのは意義深かった、と私も思っています。

 青木氏は、一般的な設計要件(必要な部屋数や広さなど)に加え、「潟(かた)を知る」と事から始め「潟」が植生や生物種に富んでいる事を理解しつつ、初期のイメージは『水の深さによって異なる生物種を階層で表す』という(青木氏なりの)決定ルール※程度しか思い描いていなかった。
※決定ルールとは、青木氏の著書「原っぱと遊園地」(2004年王国社刊)で出てくる言葉。
しかし彼は別の決定ルールも採用しよう、と思っていた気がする。
その別のルールとは、熊本県で計画していた「馬見原橋(まみはらばし)※」での『道を建築に進化させる』だったり『ただそこ(潟)に在る』という意識だった。
※馬見原橋(熊本県のウェブより引用) http://www.pref.kumamoto.jp/kiji_1677.html

ただしそれだけで形作るには余りにも曖昧過ぎる、そんな時ふと「アフリカの女王」という映画で「この建物の展望(眺望)の必要性・重要性・見せ方」に気づいた!

www.youtube.com↑ユーチューブより引用(下記2枚の写真とも)

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《ハンフリーボガートとキャスリンヘプバーンが出演したこの映画、二人が逃げ行く先に潟があり、疲れ果てている状況下でアシやヨシに先を阻まれ抜け切れないと途方に暮れる》

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《二人が途方に暮れていた場所が、実は湖に近い場所であった!という状況は、カメラがハイアングルになって初めて気づかされるシーン》
↑このシーンが、この建物を特徴づける設計ヒントになった。
つまり…潟は、周辺の土手や植物に囲まれているが、果て無く広がっている訳では無い事も特徴なのだ!
そして、その潟全体を来館者から程良く感じ取ってもらうには?と考えつつ新たな決定ルール『動線空間だけでつくる』にたどり着いた。

《注》彼が考えたいくつかの決定ルールそのものは、確かにルール(規則性に添う)であるが、ルール同士融和したりぶつかり合う事もスタディ段階ではよくある事で、それらを試行して行く事ことで新たな(新しいOR全く別物の)決定ルールが生まれる事も有る・・・と著書では述べている。

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ここでビュー福島潟における設計の決定ルールを整理してみると以下の様になる。
1:水の深さによって異なる生物種を階層で表す
2:道を建築に進化させる⇔道から進化した建築を
3:ただそこ(潟)に在る
4:動線空間だけでつくる≒あえて仕切られた空間にしない。

ただし3は、とても自由であり解釈が難しい「^^」>が、他の決定ルールから導き出された形状や、この建物自体がその地域のランドマークになっている事がそれを表している、と私は思う。
・・・
 以下に完成した建物の写真を数枚掲載しますので、青木氏の設計に関する決定ルールを振り返ってみてください。設計者である青木氏が自己中心的な奇抜建物デザイナーではない事が、よ~く理解できるはずです。(写真よりも、この建物を訪ねると一番実感できます)また使用されている建築材料も特徴ありますので、その辺りも現地でご確認ください。

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《地域のランドマークとなったビュー福島潟と展望螺旋の表現》

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《建物そばの様子》



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《施設対面道路からのアプローチ》

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《1階から上へ抜ける(つながる)大空間と二つの螺旋》

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《階層ごとの展示内容変化と眺望の良さ》
※床は緩いスロープになって、最上階まで続いている。

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《講演中の青木淳氏》

『振り返り』
 今回この記事を書くのに間が空いたのは、あの日あの場所での彼の言葉だけでなく文字(著書)を読んでから書こうと、私自身の気が変わったからに他ならない(苦笑)
しかし、そうすることで青木氏の設計手法の理解につながり、自分自身にとっても設計を進めて行く意義を見いだせた事は事実である。
 また個人的な意見だが、青木氏が世界的な建築家:磯崎新氏のアトリエで働きその後独立する際、当時の世間でポストモダン建築と呼ばれた建築物に対するシビアな判断や分析が今に生きている…そんな気がしている。
・・・
 彼の著書「原っぱと遊園地(2004年王国社刊)」に掲載してある建築短編随筆(?)の内、本のタイトルにもなっている「原っぱと遊園地」や「決定ルール、あるいはそのオーバードライブ」は、ビュー福島潟を見た後にお薦めします「^^」
=参考書籍=「原っぱと遊園地」2004年 王国社刊
      「G」2005年 中央出版アノニマ・スタジオ